ISO389-7による音の感覚閾値(聴覚閾値)

(この記事は、低周波音の身体に対する影響を問題にしています。従って、文中の参照値は、心身に係る影響に関する参照値のことです)

低周波音についての指標として最も権威があるのは、環境省が2004年に公表した参照値(環境省の公式ウェブサイトに掲載されている、「低周波音問題対応の手引書」に記載されています)ですが、近年は、国際規格ISO389-7による音の感覚閾値(聴覚閾値)もそれに劣らず重要になってきました。

その理由は、消費者庁の消費者安全委員会が2017年12月21日に発表した、  「消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書 家庭用コージェネレーションシステムから生じる運転音により不眠等の症状が発生したとされる事案」という報告書です(消費者庁の公式ウェブサイトに掲載されています)。家庭用コージェネレーションシステムとは、商品名エネファーム及びエコウィルとして販売されている(ただし、エコウィルは現在販売されていません)家庭用の発電・廃熱利用システムのことです。

上記の報告書は、エネファームやエコウィルの音についての苦情が寄せられた数件の事例について、消費者安全委員会が音の測定を伴う調査をした結果、

・低周波音の測定値が、参照値よりも低いレベルである、ISO389-7による感覚閾値を上回っていれば、人の身体に対する影響が生じうること

・参照値が存在しない、100ヘルツや125ヘルツのバンド(これらは低周波音には含まれません)について、測定値が感覚閾値を上回っていれば、人の身体に対する影響が生じうること

を述べています。

そして、環境省も、低周波音の測定値が参照値を下回っていても、人の身体に対する影響が生じうることを認めており、その旨の通知を複数回、地方公共団体に対して発しています。

これらのことから、特に125ヘルツ以下のバンドについてのISO389-7による感覚閾値は重要なのですが、不思議なことに、その感覚閾値の正確な数値を示した文献はほとんど見当たりません。消費者庁の上記の報告書では、一部のバンドについて感覚閾値の数値が言及されていますが、各バンドについての感覚閾値の数値を示した一覧表といったものは記載されていませんし、インターネットで検索してみても、各バンドについてのISO389-7の感覚閾値の一覧表はヒットしません(ISO389-7の感覚閾値のグラフというものはいくつかヒットしますが、グラフでは、各バンドについての感覚閾値の正確な数値はわかりません)。

参照値については、環境省の公式サイトに掲載されている「低周波音問題対応の手引書」を見れば、各バンドの参照値の数値が示されていますので、調べるのは容易なのですが、それと対照的に、このとおり、ISO389-7の感覚閾値は調べるのが困難です。

そこで私は、国会図書館関西館に所蔵されているISO389-7を閲覧し、必要なページをコピーしましたので(このいきさつについては、国会図書館でISO389-7を調べた話に書きました)、以下に、20ヘルツ~125ヘルツの各バンドについてのISO389-7の感覚閾値を示します。比較のため、参照値も並べて記載します。(100ヘルツ及び125ヘルツには参照値はありません)

バンド(ヘルツ) 20 25 31.5 40 50 63 80 100 125
参照値(デシベル) 76 70 64 57 52 47 41
感覚閾値(同) 78.5 68.7 59.5 51.1 44.0 37.5 31.5 26.5 22.1