Archive for the ‘公害紛争処理制度’ Category

公害審査会方式と公害審査委員候補者名簿方式

2020-10-18

公害紛争処理法の一部改正…都道府県レベルの公害紛争処理制度についてで述べた通り、都道府県レベルの公害紛争処理機関には、公害審査会方式と公害審査委員候補者名簿方式とがあり、どちらの方式を採用するかは各都道府県が決めます。

東京都では公害審査会方式がとられていますが、私は2019年4月より、東京都公害審査会の委員を務めています。任期は2022年3月までです。

東京都公害審査会委員の任務は、1)現実の事件について調停委員として関与すること(制度上は、調停のほかにあっせんと仲裁もありますが、実際に利用されるのはほとんど調停です)と、2)年2回開催される総会に出席することです(総会の定例会が年2回開催されることは、東京都公害審査会運営要綱1条2項により定められています。また、総会の開催については東京都環境局の公式ウェブサイトで公表されます)。

このうち、1)は、公害審査委員候補者名簿方式をとる都道府県においても同じはずです(候補者名簿の本来の目的ですので)。

他方、2)は、常設の公害審査会が設置されているからこそ、その総会というものが存在するわけですので、公害審査委員候補者名簿方式をとる都道府県では行われていないと思います(やろうと思えば、「公害審査委員候補者連絡会議」というようなものを開催することは可能でしょうが、それでは、公害審査会を設置するのと変わらないことになり、公害審査委員候補者名簿方式をとる意味がなくなってしまうでしょう)。

総会では、東京都公害審査会に現に係属している事件について、担当の調停委員から説明がされ、委員の間で質疑応答や意見交換がされます。このような形で情報共有をすることは、自分が個別の事件において調停委員を担当する際に大いに役立ちますので、非常に有意義であると感じています。

この点からは、公害審査委員候補者名簿方式よりは公害審査会方式のほうが優れていると言えると思います。

公害紛争処理法の一部改正…都道府県レベルの公害紛争処理制度について

2020-10-11

本年6月3日に成立し、6月10日に公布・施行された「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第10次地方分権一括法、第10次一括法)(令和2年法律第41号)により、公害紛争処理法(以下、単に「法」といいます)が一部改正されました。

第10次一括法の関連条文は第3条で、以下の通りです(原文は縦書き、漢数字)。

 

「(公害紛争処理法の一部改正)

第3条 公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)の一部を次のように改正する。

第18条第1項中「都道府県知事は、毎年」を「毎年又は1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに、都道府県知事は」に改める。」

 

この改正の意義を述べるためには、法が設けている都道府県レベルの公害紛争処理制度の説明から始める必要があります。

都道府県レベルの公害紛争処理制度としては、都道府県公害審査会方式と、公害審査委員候補者名簿方式とがあります。

都道府県公害審査会(単に「審査会」と呼ばれることもあります)は常設の機関で、9人以上15人以内の委員で組織され(法15条1項)、委員は都道府県知事が議会の同意を得て任命します(法16条1項)。審査会には、委員の互選により定められる会長が置かれます(法15条2項)。

法13条は、「都道府県は、条例で定めるところにより、都道府県公害審査会(以下「審査会」という。)を置くことができる。」と定めており、都道府県が審査会を置くことは義務ではありません。そして、審査会を置かない都道府県では、都道府県知事が9人以上15人以内の公害審査委員候補者を委嘱し、公害審査委員候補者名簿を作成しておかなければなりません(法18条)。

このように、各都道府県は、その選択により、審査会を置くか、あるいは公害審査委員候補者名簿を作成するかのどちらかを行う必要があります。審査会と、審査会を置かない都道府県における都道府県知事は、あわせて「審査会等」と呼ばれます(法24条2項)。

公害等調整委員会(公害紛争処理法上は「中央委員会」と呼ばれます。法3条)と審査会等は、いずれも、公害に係る紛争に関するあっせん、調停及び仲裁について管轄を有します。その管轄の振り分けは法24条に定められています。

なお、責任裁定と原因裁定については、中央委員会のみが管轄を有します(法42条の2)。

審査会等に対して、公害紛争の当事者からあっせん、調停または仲裁が申請されたときには、それぞれ、3人以下のあっせん委員、3人の調停委員からなる調停委員会または3人の仲裁委員からなる仲裁委員会が、あっせん、調停または仲裁を行います(法28条1項、法31条1項、法39条1項)。個々の事件におけるあっせん委員、調停委員または仲裁委員は、審査会の委員(審査会を置かない都道府県においては、公害審査委員候補者名簿に記載されている者)の中から、審査会の会長(審査会を置かない都道府県においては都道府県知事)が指名します(法28条2項、法31条2項、法39条2項)。

今回の改正は、公害審査委員候補者名簿方式を採用する都道府県が候補者名簿を作成する期間に関するものです。

従来の法18条1項は、

「審査会を置かない都道府県においては、都道府県知事は、毎年、公害審査委員候補者9人以上15人以内を委嘱し、公害審査委員候補者名簿(以下「候補者名簿」という。)を作成しておかなければならない。」

という規定でしたが、始めに書いた通り、

「審査会を置かない都道府県においては、毎年又は1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに、都道府県知事は、公害審査委員候補者9人以上15人以内を委嘱し、公害審査委員候補者名簿(以下「候補者名簿」という。)を作成しておかなければならない。」

と改正されました(下線部が改正部分です)。

つまり、これまでは、公害審査委員候補者名簿は毎年作成しなければならなかったのが、改正により、「1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに」作成することも可能になったわけです。

この改正の意義について、公害等調整委員会は、「公害審査会を置かない都道府県においては、地域の実情に応じた柔軟な委嘱期間の設定が可能となり、委嘱手続の事務負担の軽減に資する」と説明しています(公害等調整委員会のウェブ雑誌「ちょうせい」の102号[本年8月]37ページ…公害等調整委員会の公式ウェブサイトに掲載されています)。

一方、審査会を置く都道府県においては、審査会の委員の任期は3年であり(法16条3項)、この規定には変更はありません。

この改正により、公害審査委員候補者名簿の作成期間が審査会の委員の任期(3年)と一致することがあり得ることになりました。ただし、審査会の委員の任期は3年で固定されているのに対し、候補者名簿の作成期間は「1年」または「1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間」のどちらかですので、この両者が統一されたわけではありません。

なお、法18条1項の文言から明らかな通り、候補者名簿については、改正前のように毎年候補者名簿を作成する場合には、条例で定めることは不要であり、候補者名簿の作成期間を「1年を超え3年以下の期間」にするときだけ、条例で定める必要があります。

以上のように、都道府県レベルの公害紛争処理制度については、審査会方式と公害審査委員候補者名簿方式とがあり、各都道府県の選択により、どちらか一方の方式が採用されます。

ある特定の都道府県においてどちらの方式を採用しているかについては、その都道府県の公式ウェブサイトを見ればわかることが多いと思いますが(もしわからなければ、電話等でその都道府県庁に問い合わせれば教えてくれるでしょう)、各都道府県についてどちらの方式がとられているかを横断的に知りたいとか、47都道府県のうちでそれぞれの方式を採用している都道府県の数を知りたいとかいったときはどうすればよいでしょうか。

このことは公害等調整委員会の公式ウェブサイトに載っているのですが、予備知識なしでこのサイトを見て、求める情報にたどりつくのはかなり難しいと思いますので、書いておきます。

公害等調整委員会の公式サイトのトップページ(https://www.soumu.go.jp/kouchoi/)→「広報・報告・統計」→「年次報告(公害紛争処理白書)」→最新の年次報告の「参考資料」→(以下は、現時点で最新である令和元年度についての話です)「第1章 公害紛争処理制度の概要」とたどると、「第1編 公害紛争処理法に基づく事務の処理」の「第1章 公害紛争処理制度の概要」 というPDF文書が出てきます。その2ページから3ページにかけて、「令和元年度末現在、公害審査会を置いているのは37都道府県であり、公害審査委員候補者名簿を作成しているのは10県(岩手県、山梨県、長野県、和歌山県、鳥取県、島根県、徳島県、香川県、愛媛県及び長崎県)である。」という記述があります。

なお、この10県という数字とその内訳は、2011年5月に公刊した私の「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」の329ページの記載(2010年12月の時点で公害等調整委員会の公式サイトに記載されている、という注意書きがあります)と同一ですので、2011年以来現在まで変わっていないことになります。

 

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