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公害紛争処理法の一部改正…都道府県レベルの公害紛争処理制度について

2020-10-11

本年6月3日に成立し、6月10日に公布・施行された「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第10次地方分権一括法、第10次一括法)(令和2年法律第41号)により、公害紛争処理法(以下、単に「法」といいます)が一部改正されました。

第10次一括法の関連条文は第3条で、以下の通りです(原文は縦書き、漢数字)。

 

「(公害紛争処理法の一部改正)

第3条 公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)の一部を次のように改正する。

第18条第1項中「都道府県知事は、毎年」を「毎年又は1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに、都道府県知事は」に改める。」

 

この改正の意義を述べるためには、法が設けている都道府県レベルの公害紛争処理制度の説明から始める必要があります。

都道府県レベルの公害紛争処理制度としては、都道府県公害審査会方式と、公害審査委員候補者名簿方式とがあります。

都道府県公害審査会(単に「審査会」と呼ばれることもあります)は常設の機関で、9人以上15人以内の委員で組織され(法15条1項)、委員は都道府県知事が議会の同意を得て任命します(法16条1項)。審査会には、委員の互選により定められる会長が置かれます(法15条2項)。

法13条は、「都道府県は、条例で定めるところにより、都道府県公害審査会(以下「審査会」という。)を置くことができる。」と定めており、都道府県が審査会を置くことは義務ではありません。そして、審査会を置かない都道府県では、都道府県知事が9人以上15人以内の公害審査委員候補者を委嘱し、公害審査委員候補者名簿を作成しておかなければなりません(法18条)。

このように、各都道府県は、その選択により、審査会を置くか、あるいは公害審査委員候補者名簿を作成するかのどちらかを行う必要があります。審査会と、審査会を置かない都道府県における都道府県知事は、あわせて「審査会等」と呼ばれます(法24条2項)。

公害等調整委員会(公害紛争処理法上は「中央委員会」と呼ばれます。法3条)と審査会等は、いずれも、公害に係る紛争に関するあっせん、調停及び仲裁について管轄を有します。その管轄の振り分けは法24条に定められています。

なお、責任裁定と原因裁定については、中央委員会のみが管轄を有します(法42条の2)。

審査会等に対して、公害紛争の当事者からあっせん、調停または仲裁が申請されたときには、それぞれ、3人以下のあっせん委員、3人の調停委員からなる調停委員会または3人の仲裁委員からなる仲裁委員会が、あっせん、調停または仲裁を行います(法28条1項、法31条1項、法39条1項)。個々の事件におけるあっせん委員、調停委員または仲裁委員は、審査会の委員(審査会を置かない都道府県においては、公害審査委員候補者名簿に記載されている者)の中から、審査会の会長(審査会を置かない都道府県においては都道府県知事)が指名します(法28条2項、法31条2項、法39条2項)。

今回の改正は、公害審査委員候補者名簿方式を採用する都道府県が候補者名簿を作成する期間に関するものです。

従来の法18条1項は、

「審査会を置かない都道府県においては、都道府県知事は、毎年、公害審査委員候補者9人以上15人以内を委嘱し、公害審査委員候補者名簿(以下「候補者名簿」という。)を作成しておかなければならない。」

という規定でしたが、始めに書いた通り、

「審査会を置かない都道府県においては、毎年又は1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに、都道府県知事は、公害審査委員候補者9人以上15人以内を委嘱し、公害審査委員候補者名簿(以下「候補者名簿」という。)を作成しておかなければならない。」

と改正されました(下線部が改正部分です)。

つまり、これまでは、公害審査委員候補者名簿は毎年作成しなければならなかったのが、改正により、「1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに」作成することも可能になったわけです。

この改正の意義について、公害等調整委員会は、「公害審査会を置かない都道府県においては、地域の実情に応じた柔軟な委嘱期間の設定が可能となり、委嘱手続の事務負担の軽減に資する」と説明しています(公害等調整委員会のウェブ雑誌「ちょうせい」の102号[本年8月]37ページ…公害等調整委員会の公式ウェブサイトに掲載されています)。

一方、審査会を置く都道府県においては、審査会の委員の任期は3年であり(法16条3項)、この規定には変更はありません。

この改正により、公害審査委員候補者名簿の作成期間が審査会の委員の任期(3年)と一致することがあり得ることになりました。ただし、審査会の委員の任期は3年で固定されているのに対し、候補者名簿の作成期間は「1年」または「1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間」のどちらかですので、この両者が統一されたわけではありません。

なお、法18条1項の文言から明らかな通り、候補者名簿については、改正前のように毎年候補者名簿を作成する場合には、条例で定めることは不要であり、候補者名簿の作成期間を「1年を超え3年以下の期間」にするときだけ、条例で定める必要があります。

以上のように、都道府県レベルの公害紛争処理制度については、審査会方式と公害審査委員候補者名簿方式とがあり、各都道府県の選択により、どちらか一方の方式が採用されます。

ある特定の都道府県においてどちらの方式を採用しているかについては、その都道府県の公式ウェブサイトを見ればわかることが多いと思いますが(もしわからなければ、電話等でその都道府県庁に問い合わせれば教えてくれるでしょう)、各都道府県についてどちらの方式がとられているかを横断的に知りたいとか、47都道府県のうちでそれぞれの方式を採用している都道府県の数を知りたいとかいったときはどうすればよいでしょうか。

このことは公害等調整委員会の公式ウェブサイトに載っているのですが、予備知識なしでこのサイトを見て、求める情報にたどりつくのはかなり難しいと思いますので、書いておきます。

公害等調整委員会の公式サイトのトップページ(https://www.soumu.go.jp/kouchoi/)→「広報・報告・統計」→「年次報告(公害紛争処理白書)」→最新の年次報告の「参考資料」→(以下は、現時点で最新である令和元年度についての話です)「第1章 公害紛争処理制度の概要」とたどると、「第1編 公害紛争処理法に基づく事務の処理」の「第1章 公害紛争処理制度の概要」 というPDF文書が出てきます。その2ページから3ページにかけて、「令和元年度末現在、公害審査会を置いているのは37都道府県であり、公害審査委員候補者名簿を作成しているのは10県(岩手県、山梨県、長野県、和歌山県、鳥取県、島根県、徳島県、香川県、愛媛県及び長崎県)である。」という記述があります。

なお、この10県という数字とその内訳は、2011年5月に公刊した私の「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」の329ページの記載(2010年12月の時点で公害等調整委員会の公式サイトに記載されている、という注意書きがあります)と同一ですので、2011年以来現在まで変わっていないことになります。

 

音楽フェスティバルの騒音が水中の魚のストレスを高める

2020-07-12

科学情報メディア「ナゾロジー」https://nazology.net/に、7月8日付で、「音楽フェスの騒音が「魚のストレスを急激に高める」と判明! 水中の騒音が魚の聴覚を狂わせる(アメリカ)」という記事が掲載されています。

この記事によれば、フロリダ州マイアミで毎年行われるエレクトロニック・ダンス・ミュージックの祭典「Ultra Music Festival」による騒音の水中の魚への影響について、このフェスティバルの会場に近いマイアミ大学ローゼンティール・スクールの研究によると、ラボ内で飼っているアンコウ類の血中のコルチゾール値が、昨年3月のフェスティバルの開催中は、開催前の4~5倍に跳ね上がったということです。コルチゾールはストレスによって分泌が促進されるホルモン物質であり、この分泌量が多いと血圧や血糖を高め、不妊や免疫レベルの低下を引き起こします。

また、フェスティバル開催中の水中の騒音の変化を調べたところ、ラボ内の水槽で7~9デシベル、近郊の水域では2~3デシベルの上昇が確認されており、これは魚の生態にネガティブな変化を与えるに十分な数値の変化であるとされています。

騒音が水中生物に与える悪影響については以前にも取り上げたことがありますが(「水中の騒音がムール貝の成長を阻害するおそれ(イギリス」)、今回のナゾロジーの記事には、「これまでの研究でも、水中の騒音は、魚の聴覚を狂わせ行動異常を引き起こし、生殖や産卵を混乱させることが証明されていました」という文章があります。

 

 

JISは「日本産業規格」

2020-07-05

騒音や振動については、JISに注意を払う必要があります。騒音の測定方法はJIS Z 8731に、振動の測定方法はJIS Z 8735に規定されており、法令では、騒音や振動の測定はこれらに従って行うことになっていますし、騒音計や振動計の規格等を定めるJISもいろいろあります。

このJISは、長らく「日本工業規格」と呼ばれてきましたが、2018年の改正で、「日本産業規格」という名称に変わりました。JISの根拠法も「工業標準化法」から「産業標準化法」に変わりました。

経済産業省の公式サイトの説明によると、この改正の主要点は、①データ、サービス等への標準化の対象拡大、②JISの制定等の迅速化、③JISマークによる企業間取引の信頼性確保、④官民の国際標準化活動の促進を図る、の諸点だそうです。

英語名称(Japanese Industrial Standards)や、JISという略称は変わりません。また、工業標準化法に基づいて制定されたJISは、産業標準化法に基づくJISとみなされます。

この法改正は2018年に成立し、同年5月30日に公布され、施行は2019年7月1日です。

JISと言えば日本工業規格、というイメージが長年固定されていますので、つい今でもJISというと「日本工業規格」と言ってしまいそうですが、これからは「日本産業規格」と言わないと、恥ずかしい思いをします。

羽田空港の新飛行ルート、取り消しを求めて提訴

2020-06-27

羽田空港の新飛行ルートの実施を決めた国の決定は、周辺住民を騒音や落下物、排ガスによる危険にさらすもので違法であるとして、6月12日に、新ルート周辺住民29名が決定の取り消しを求める行政訴訟を東京地裁に提起しました(6月13日付朝日新聞朝刊)。

新飛行ルートについては、3月27日付の日経ビジネス電子版に、「羽田は世界でいちばん危険な空港になる」というタイトルの、元日本航空機長で航空評論家の杉江弘氏のインタビューが載っています。なぜ世界で一番危険かというと、降下角(最終的な着陸態勢に入る最終進入地点と滑走路上の着陸地点を結んだ角)が、現行の3.0度から3.45度へと急になり(世界標準は3.0度)、パイロットにとってはまるで地面に突っ込んでいくような感覚になるからだそうです。

その他にも、このインタビューには背筋が寒くなるような話がいろいろ載っています。

新飛行ルートについては、騒音被害の問題以外にも、問題点が山積みのようです。

保育所の騒音被害に対する訴えが退けられる

2020-06-20

6月18日に、東京地裁は、東京都練馬区の住民が近隣の保育所からの騒音について差止めや損害賠償を求めた訴訟について、訴えを棄却する判決を言い渡しました(6月19日付朝日新聞朝刊)。

騒音被害を訴える訴訟では、原告(つまり被害者側)が勝訴した事例がマスメディアで報道されることはこれまでしばしばありましたが、原告が敗訴した裁判が報道されるのは珍しいと思います。

この裁判で気になるのは、東京都の環境確保条例との関係です。環境確保条例の定める騒音の規制基準は、騒音の種類や発生源を問わずに適用されるのが原則ですが、2015年の改正により、保育園や幼稚園等からの子供の声などには規制基準が適用されないことになりました。

これは、保育園や幼稚園等の騒音については規制を緩和するという姿勢の現れと思われます。このような東京都の姿勢が、裁判所の判断に影響を及ぼすのかどうかが気になります。

また、騒音紛争において、受忍限度の判断はさまざまな事情を総合的に考慮してなされるものですが、実際問題としては、その音量が法令上の規制基準値を超えているかどうかが重要視されます。上記のように、保育園や幼稚園等の騒音には環境確保条例の規制基準値が適用されないと明記されている中で、裁判所が保育園や幼稚園等の騒音の受忍限度の判断に際し、この規制基準値を考慮するのかどうかも注目されます。

報道の一部には、今回の判決が受忍限度の判断に際して環境確保条例の規制基準値を考慮したと述べたものもあります。

今回の判決が、判例雑誌や判例データベース、あるいは裁判所の公式サイトの判例紹介に掲載されることを期待したいと思います。

羽田空港新ルートの騒音問題

2020-02-23

羽田空港の新ルートが3月29日から運用開始される予定だそうで、その試験飛行が7日間にわたって行われたのですが、その際、住民から騒音に関する苦情や問い合わせが、国土交通省の専用ダイヤルに1日あたり約100件あったと報道されています(2月19日付朝日新聞朝刊)。

その記事によれば、国土交通省は、騒音の測定結果についておおむね想定どおりだったとコメントしているそうですが、これはとんでもない話ではないでしょうか?

試験飛行で計測された音量の瞬間最大値は、どの場所でも70デシベル台後半、最大で94デシベルにもなっています。しかも、測定場所の中に小中学校が4校あり、音量が最大なのは羽田小学校の76~85デシベルだとのことです。

この音量の下で、まともに授業ができるとは思えません。校舎の防音工事等の対策がとられるのかもしれませんが、そもそも、国はこの新ルート計画を発表したときに、住民に騒音被害が生じないようにすると言っていたのではなかったでしょうか? この測定結果を見て「おおむね想定どおり」などと涼しい顔で言ってもらっては困ります。

この新ルートの騒音問題については、今後、注視していく必要があります。

水中の騒音がムール貝の成長を阻害するおそれ(イギリス)

2019-07-13

イギリスの新聞であるデイリーメール(Daily Mail)に、7月8日付で、船から発生する海中の騒音のためにムール貝がストレスを感じ、成長が阻害されるおそれがあるという記事が出ています(デイリーメールのオンライン版で、検索窓に”mussels”と入れて検索してみてください)。

これは、イギリスの大学の海洋科学者のグループによる研究結果です。それによると、ムール貝は、耳はないけれども、環境中の騒音のレベルの変化を感知することができるそうです。

船から発生する騒音のストレスによって、直ちにムール貝にとって致命的あるいは危険な影響があるわけではないけれども、長期的には、ムール貝の成長が妨げられ、生息数が減少するおそれがあるとのことです。

この記事を見て連想するのは、風力発電の風車の音の影響です。風力発電の風車から発生する騒音や低周波音が人の身体に悪影響を及ぼすおそれがあることは、近年注目されており、このことを考慮して、最近は風力発電設備を陸上ではなく洋上に建設することもあるようです。

洋上に建設すれば、人の身体に対する影響は防げるかもしれませんが、海中の魚などの生物に対して、風車の騒音や低周波音が悪影響を及ぼすことはないのでしょうか。

実際に、風力発電の建設予定地では、漁業関係者から、風車の音による魚への影響を懸念する声があがることがあるようです。このような問題があることには留意しておくべきだと思います。

 

コケコッコー騒音? 仏で論争

2019-07-10

7月9日付朝日新聞朝刊の国際面に、「コケコッコー騒音? 仏で論争」という記事がありました。フランス西部のリゾート地であるオレロン島で、隣家の雄鶏の鳴き声が「騒音」だとして、別荘に夏の間だけ暮らす夫婦が雄鶏と飼い主を相手取り、雄鶏を別の場所に移すよう求める訴えを裁判所に起こしたというものです。

動物の鳴き声に悩まされているという御相談や御依頼をお受けすることはときどきあります。それらの案件で問題となったのは、犬の鳴き声や、鳥の鳴き声などで、ペットとして飼われている動物の他、ブリーダーが事業として飼っている動物の鳴き声の事件もあります。

この記事で面白いのは、飼い主だけでなくその雄鶏も被告になっているらしく、飼い主が「雄鶏には歌う権利がある」と主張しているとのことです。日本では、動物を被告として訴えることはできません。

また、原告は、雄鶏を別の場所に移すことを求めているそうですが、この主張も日本の裁判所では認められません。日本では、動物の鳴き声が騒音であるとして差止めの裁判を起こすとしたら、「何デシベルを超える鳴き声を原告の自宅敷地内に侵入させてはならない」という趣旨の判決を求めることになります(「抽象的不作為請求」と呼ばれます)。原告の被害をなくすためにはそれで必要十分だからです。それを超えて、動物自体を他に移せという請求が認められることはないと思います。

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