騒音の判例・裁判例

1 判例名

大阪地判平27.12.11(判例時報2301号103頁)

事案の概要

原告は、自宅の近隣に居住する被告らの飼い犬の鳴き声のために、睡眠障害を伴う神経症を発症するなどして精神的苦痛を被り、治療費等の損害も被ったとして、被告らに対して、損害賠償約182万円及び遅延損害金を請求した。

判決の要旨

1)犬は深夜や早朝の時間帯を含め、日常的に比較的大きな音量で、一定の時間鳴き続けていた、

2)原告は犬の鳴き声によって睡眠を妨げられるなどの生活上の支障が生じていたが、被告らは、原告から苦情を言われたり、調停の申立てをされた後にも、犬の鳴き声を低減させるための適切な措置をとらなかったこと、

等から、犬の鳴き声は受忍限度を超えていたとして、被告らに対し、慰謝料25万円、その他の損害(心療内科の治療費・交通費、PCMレコーダーの購入費等)約10万円、弁護士費用3万円の合計約38万円及び遅延損害金の損害賠償を命じた。

解説

原告自身(従って、騒音測定の専門業者ではありません)が、PCMレコーダーで犬の鳴き声を録音し、分析ソフト(Sound Forge Audio Studio 8.0)で分析を行って、音量の最大値や平均値を算出した結果について、原告がこの分析に際して人為的な操作を行ったことをうかがわせるような事情は見当たらない、と述べて、受忍限度の判断にあたっての考慮材料の一つとしたことが注目されます。

しかし、この判示については、計量法16条1項(計量器でないものを、取引又は証明における法定計量単位による計量に用いることを禁じている)の見地からすると疑問があります。

 

2 判例名

神戸地判平成29.2.9(裁判所ウェブサイト掲載判決)

事案の概要

神戸市内の保育園の近隣に居住する原告が、保育園の園児が園庭で遊ぶ声の騒音が受任限度を超えており、日常生活に支障を来し、精神的被害を被っているとして、慰謝料100万円とその遅延損害金及び騒音の差止(敷地境界線上における騒音が90%レンジの上端値で50dB以下となるような防音設備を設置せよ)を求めて、保育園を運営する社会福祉法人を相手どって提訴した。

判決の要旨 

以下の理由で、園児の声等の騒音は受忍限度を超えていないとして、請求が棄却された。
1)鑑定の結果、園児が園庭で遊んでいる時間帯では騒音の大きさは環境基準の基準値を超えているが、環境基準は時間の区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルで評価することを原則とするから、昼間の時間区分(午前6時~午後10時)全体の等価騒音レベルに引き直すと、基準値を上回らない。

2)規制基準の規制値は敷地境界線上における測定で評価するが、受忍限度の判断にあたっては、騒音源と被害者の自宅の距離と騒音の減衰量を踏まえて検討すべきであり、本件では保育園の騒音は原告宅屋外で17~18dB減衰する。

3)騒音が発生する時間帯は1日のうち約3時間である。

4)被告は、当該保育園の設置に際して、近隣住民に対する説明会を1年ほどかけて行い、近隣住民からの質問・要望等に応じて、防音壁の設置や近隣住民宅の窓を被告負担で二重サッシ化することなどの騒音対策を講じている。

解説

幼稚園や保育園の騒音は、近年問題になることが多いものの一つです。

この判決は、騒音の測定値が環境基準を超えているかどうかについて、時間の区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルに引き直して評価していることや、規制基準について、単純に敷地境界線上における測定値で評価するのではなく、敷地境界線から被害者宅までの距離及びそれによる音の減衰を考慮していることという点で、従来の判例の流れに比べて、受忍限度のハードルをあげる(被害者にとって厳しい)方向の判断を下しています。これが、近年の社会では子供の声を容認すべきであるという意見が強いことを反映しているのか、あるいは騒音紛争一般について裁判所の見方が被害者にとって厳しい方向に向かっているのかについては、今後の裁判例の動向を見極める必要があります。

なお、この判決については控訴されましたが、控訴審でも原告の請求は認められず、控訴が棄却されました。

 

3 判例名

東京地判平成26.3.25(判例時報2250号36頁)

事案の概要

東京都中央区の分譲マンションの1室に居住する夫婦が、真下にある7階の一室を所有している夫婦とその息子(被告ら建物に住んでいるのは被告Aのみ)を相手どって、騒音(被告Aの歌う歌声)の差止め(特定の音量[時間帯によって異なる…東京都の環境確保条例の時間帯区分に従っているため]を超える音量の騒音を原告ら建物内に侵入させてはならない…所有権を根拠とする)及び損害賠償を求めて提訴した。

判決の要旨

1)損害賠償請求は認められた。
被告Aが年に数回程度深夜に歌を歌い(その音量は最大41デシベル)、原告ら宅に受忍限度を超える騒音を伝搬させたとして、夫について慰謝料10万円及び弁護士費用2万円、妻については慰謝料20万円及び弁護士費用4万円が認容された。

2)差止請求は棄却された。
その理由は、被告Aの行為により、原告ら宅についての所有権が侵害される具体的なおそれを認めることはできないということである。

3)被告B・Cの不法行為責任は否定された。
その理由は、被告B及び被告Cが、被告Aが発生させる騒音が受忍限度を超えるものであることを認識し、または認識し得たとの事実を認めるに足りる証拠はないということである。”

解説

私自身が訴訟の途中から原告らの代理人となった訴訟です。

1)「建物の防音効果を考慮すると、建物内においては、東京都条例による騒音の規制値(50デシベル)より厳格な数値が求められている」と明言したことが注目されます。

2)本件のような、居住者に賃貸している大家の責任を認めた判決もありますが(大阪地判平成元.4.13判例時報1322号120頁・判例タイムズ704号227頁、東京地判平成17.12.14判例タイムズ1249号179頁)、本件では認められませんでした。この問題については、「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」の203~208頁と、「解説悪臭防止法 下」の169~171頁を御参照ください。
東京地判平成24.3.15(判例時報2155号71頁)

 

4 判例名

東京地判平成24.3.15(判例時報2155号71頁)

事案の概要

東京都品川区内のマンションに居住している夫婦(原告ら)が、その真上の部屋を所有し、そこに子供とともに居住している夫婦に対して、子供が部屋の中で飛び跳ねたり走り回ったりする音による被害を主張して、損害賠償及び騒音の差止を求めて提訴した。

判決の要旨

1)原告宅に響いた音は、業者による騒音測定の結果(周波数のピークが重量衝撃音の特性に合致すること)や、被告の子の行動記録によると、その子の在宅中に音が発生していることが認められること等から、被告の子が被告宅内で飛び跳ねたり走り回ったりしたことにより発生したものと認められる。

2)上記のような事実を生じさせないように配慮しないことは、被告らの受忍限度を超え、不法行為を構成する。

3)騒音の差止め(受忍限度である53dBを超える騒音を原告らの居室に到達させないこと)及び損害賠償(原告らのうち夫は940,500円、妻は324,890円及び遅延損害金。その内訳は、各30万円の慰謝料に加えて、妻について自律神経失調症の治療費・薬代、夫について業者に依頼した騒音測定費用)が認められた。

解説

この判決は、受忍限度を53dBという明確な数字で定めたことが注目されます。

しかし、その根拠として、騒音規制法や東京都の環境確保条例による規制基準も、環境基本法に基づく騒音にかかる環境基準に全く言及されず、ある学者の論文にのみ依拠されている点は非常に疑問です。

実務上、騒音紛争における受忍限度の判断にあたっては、上記の規制基準や環境基準が重要視されることが確立しているのに、この判決は一学者の論文にだけ依拠して受忍限度を判断しており、しかもその論文は30年以上も前のものであり、さらに、この論文がこの判決の述べるような趣旨であるのかどうかも疑問です。

この判決は、従来の判例の流れに沿わない特異な判決と見るべきであり、マンションの騒音紛争において今後指標となるべき判決と解釈されてはならないと思います。

 

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