まえおき
事業用でない、個人の住宅に置かれているエコキュート、エネファーム等の設備から発生する音は、最近、低周波音の発生源として問題となることが多く、消費者庁の消費者安全調査委員会による調査報告書も公表されています。
これらの設備から発生する音については、低周波音の領域の音も問題となりますが、「低周波音には含まれないが、かなり低い音」も問題となりますので、「低周波音の問題」と限定するのは必ずしも適切ではありません。
商品のいろいろ
似通った商品名のものが多数あって混同しやすいので、まずそれらの商品の特徴をご紹介します。「ガス給湯器」「電気給湯器」と呼ばれるものは、最近はこれらのどれかに属するものが多いです。
エコキュート
「家庭用ヒートポンプ給湯器」と呼ばれるものです。ヒートポンプとは、冷媒(熱を運ぶ媒体)に空気中の熱を吸収させて、それを圧縮機(電力で動きます)で圧縮することにより、さらに高温の熱を得て、その熱によってお湯を沸かす仕組みです。
エコキュートは、冷媒として、フロン等の人工的な物質ではなく、自然に存在する物質を使い、また割安な夜間電力を使ってヒートポンプを動かします。
現在、「電気給湯器」と呼ばれるものとしては、エコキュートが代表的なものです。
エネファーム・エコウィル
「家庭用コージェネレーションシステム」と呼ばれます。家庭に設置した設備で発電し、得た電力を家庭内で利用し、発電の際に出た熱は家庭での給湯に利用します。
燃料電池で発電するのがエネファーム、ガスで発電するのがエコウィルです。なお、エコウィルの新規販売はすでに終了しており、現在はエネファームのみが販売されています。
エコジョーズ
「省エネ高効率給湯器(潜熱回収型ガス給湯器)」と呼ばれます。
ガスでお湯を沸かすときに発生する排気熱を、従来のように空気中に捨てるのではなく再利用することによって、従来よりも少ないガスで効率的にお湯を沸かすことができます。また、瞬間的にお湯を沸かすことができる「瞬間式」なので、必要なときに必要なだけお湯を沸かします(エコキュートは、作ったお湯をタンクにためておくしくみです)。このため、湯切れの心配がありません。
現在のガス給湯器の主流は、このエコジョーズです。
エコワン
「ハイブリッド給湯器」と呼ばれ、エコキュートとエコジョーズを組み合わせたもので、ガスと電気の両方を利用する給湯器です。通常は電気で作った(エコキュート)タンク内のお湯を使いますが、大量の湯を使用する場合(風呂の湯はりなど)には、タンク内のお湯がなくなる前にガスでお湯を沸かし(エコジョーズ)、給湯を補います。
これら5種の商品のうち、消費者庁の消費者安全調査委員会の報告書が公表されているのはエコキュート、エネファーム、エコウィルの3種で、いずれについても低周波音の被害の可能性があるとされています。
そして、注目すべきことは次の2点です。
- 低周波音の測定値が、環境省の公表している「低周波音の心身に係る苦情に関する参照値」に達していなくても、それより小さい値である、国際規格による低周波音の感覚閾値に達していれば、身体的被害が生じる可能性があるとされている。
- 低周波音の範囲からは外れる、3分の1オクターブバンドで100ヘルツのバンド以上の領域(すなわち、一般の騒音に含まれる領域)でも、身体的被害が生じる可能性があるとされている。
解決までの大まかな流れ
音の測定・記録
まず、機械から発生する騒音あるいは低周波音を測定し、客観的で信用性ある証拠を残すことが重要です。測定については、騒音・低周波音・振動の被害の測定の方法と費用についてをごらんください。
測定結果(低周波音の測定値)が、環境省の参照値あるいは国際規格の感覚閾値を上回っていれば、低周波音による被害が生じていることを主張するに十分な証拠といえます。
話し合い
低周波音や騒音の証拠が確保できたら、次の段階としては、機械の設置者と話し合って、低周波音や騒音への対策をしてもらい、被害をなくすか、あるいは少なくとも減らすようにしてもらうことです。
ただ、通常の騒音に比べて、低周波音は防音壁で防ぐことは難しいといわれます。これは、技術的には可能だけれども、分厚いコンクリートの防音壁が必要であるため、設置することが物理的あるいは経済的に無理であるため、実際上は不可能であることが多いという意味です。
そこで、低周波音の被害の現実的な対策は、発生源の移設であるということもしばしばあります。そのためには適切な移設場所が必要ですが、それが見つけにくいため、問題の解決が難しくなることもあります。
公的手続
話し合いで解決できなければ、公的手続をとるしかありません。公的手続の種類やそれらのメリット・デメリットについては、騒音・振動・低周波音・悪臭トラブルのさまざまな解決方法をご覧ください。
円満に解決したい方へ
近隣間の騒音・低周波音紛争のすべてに当てはまることですが、近隣関係はずっと続くものですので、なるべくなら将来に禍根を残さず、円満に話し合いで解決することが望ましいと言えます。
そのためには、本人同士で話し合うよりは、弁護士に依頼することをお勧めします。その理由は、弁護士に相談するメリットをご覧ください。
弁護士に相談するメリット
騒音・低周波音の証拠化(測定・記録)
騒音計による騒音や低周波音の測定等による証拠化は、被害者ご本人にはもちろん、地方公共団体の公害苦情相談担当者や、騒音測定業者でも困難です。その理由については、騒音・低周波音・振動の被害の測定の方法と費用についてをご参照ください
測定は、騒音や低周波音の問題を多数手がけ、知識やノウハウを蓄積している当事務所にお任せください。
話し合い
相手方(機械を設置している住居の住人)と話し合いをする場合でも、弁護士に依頼するメリットは大きいです。本人同士での話し合いでは、生の感情がぶつかり合い、ときには過去のいざこざ(音に関するものとは限りません)が持ち出されたりして、かえって話がこじれ、解決が難しくなってしまうことが珍しくありません。
そこで、冷静に物事を見ることができる第三者であり、かつ紛争解決の専門家である弁護士が代理人として話し合うことによって、話がこじれることなく円満な話し合い解決をすることが容易になります。
公的手続
話し合いで解決できず、公的手続に移行せざるを得ない場合にも、弁護士に依頼するメリットは大きなものがあります。
まず、騒音・低周波音・振動・悪臭の解決方法で述べた通り、公的手続の選択肢は複数ありますので、どの手続をとるべきかを決めなければなりません。
次に、手続が決まったとして、それぞれの機関に提出すべき書面(申請書・申立書や書証)を作成しなければなりませんし、手続の開始後も多数の書面(準備書面、主張書面、書証等)を提出する必要があります。さらに、期日において、裁定委員・調停委員等の人から発せられる質問等に対して、的確な回答や説明、意見の表明等をしなければなりません。
専門家でない被害者ご本人がこのようなことを行うのは至難のことですが、経験豊富な弁護士に御依頼いただければ、各手続の利害得失を御説明して、どの手続をとるかを決めるためのアドバイスをしますし、書面の作成や期日への出席はもちろん弁護士が行います(期日には御本人も出席できますし、弁護士のほうから出席をお願いすることもあります)。
損害賠償請求をしたい場合
被害者の方の多くは、騒音や低周波音の被害をなくしてもらうことが第一だとお考えになりますが、それと合わせて損害賠償請求をしたいとお考えの方もおられます。また、騒音や低周波音の被害は今はなくなっているが、過去の被害について損害賠償請求をしたいという場合もあります。
損害賠償請求は、低周波音の被害をなくす(あるいは減らす)こととは異なった考慮をしなければならない問題です。何を損害として請求するのか(慰謝料すなわち精神的損害についての賠償か、医療費や薬代、あるいは引っ越し費用等の実費か)、どのような局面か(話し合いなのか、公的手続か)等によっても異なります。また、損害賠償を請求するためには、機械を設置した人に過失が認められる必要があります。
このように、個々の事案の事情に応じた専門的な見地からの検討が必要ですので、損害賠償請求をしたいとお考えの方は、早期に当事務所に御相談いただくことをお勧めします。