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公害審査会方式と公害審査委員候補者名簿方式
公害紛争処理法の一部改正…都道府県レベルの公害紛争処理制度についてで述べた通り、都道府県レベルの公害紛争処理機関には、公害審査会方式と公害審査委員候補者名簿方式とがあり、どちらの方式を採用するかは各都道府県が決めます。
東京都では公害審査会方式がとられていますが、私は2019年4月より、東京都公害審査会の委員を務めています。任期は2022年3月までです。
東京都公害審査会委員の任務は、1)現実の事件について調停委員として関与すること(制度上は、調停のほかにあっせんと仲裁もありますが、実際に利用されるのはほとんど調停です)と、2)年2回開催される総会に出席することです(総会の定例会が年2回開催されることは、東京都公害審査会運営要綱1条2項により定められています。また、総会の開催については東京都環境局の公式ウェブサイトで公表されます)。
このうち、1)は、公害審査委員候補者名簿方式をとる都道府県においても同じはずです(候補者名簿の本来の目的ですので)。
他方、2)は、常設の公害審査会が設置されているからこそ、その総会というものが存在するわけですので、公害審査委員候補者名簿方式をとる都道府県では行われていないと思います(やろうと思えば、「公害審査委員候補者連絡会議」というようなものを開催することは可能でしょうが、それでは、公害審査会を設置するのと変わらないことになり、公害審査委員候補者名簿方式をとる意味がなくなってしまうでしょう)。
総会では、東京都公害審査会に現に係属している事件について、担当の調停委員から説明がされ、委員の間で質疑応答や意見交換がされます。このような形で情報共有をすることは、自分が個別の事件において調停委員を担当する際に大いに役立ちますので、非常に有意義であると感じています。
この点からは、公害審査委員候補者名簿方式よりは公害審査会方式のほうが優れていると言えると思います。
公害紛争処理法の一部改正…都道府県レベルの公害紛争処理制度について
本年6月3日に成立し、6月10日に公布・施行された「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第10次地方分権一括法、第10次一括法)(令和2年法律第41号)により、公害紛争処理法(以下、単に「法」といいます)が一部改正されました。
第10次一括法の関連条文は第3条で、以下の通りです(原文は縦書き、漢数字)。
「(公害紛争処理法の一部改正)
第3条 公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)の一部を次のように改正する。
第18条第1項中「都道府県知事は、毎年」を「毎年又は1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに、都道府県知事は」に改める。」
この改正の意義を述べるためには、法が設けている都道府県レベルの公害紛争処理制度の説明から始める必要があります。
都道府県レベルの公害紛争処理制度としては、都道府県公害審査会方式と、公害審査委員候補者名簿方式とがあります。
都道府県公害審査会(単に「審査会」と呼ばれることもあります)は常設の機関で、9人以上15人以内の委員で組織され(法15条1項)、委員は都道府県知事が議会の同意を得て任命します(法16条1項)。審査会には、委員の互選により定められる会長が置かれます(法15条2項)。
法13条は、「都道府県は、条例で定めるところにより、都道府県公害審査会(以下「審査会」という。)を置くことができる。」と定めており、都道府県が審査会を置くことは義務ではありません。そして、審査会を置かない都道府県では、都道府県知事が9人以上15人以内の公害審査委員候補者を委嘱し、公害審査委員候補者名簿を作成しておかなければなりません(法18条)。
このように、各都道府県は、その選択により、審査会を置くか、あるいは公害審査委員候補者名簿を作成するかのどちらかを行う必要があります。審査会と、審査会を置かない都道府県における都道府県知事は、あわせて「審査会等」と呼ばれます(法24条2項)。
公害等調整委員会(公害紛争処理法上は「中央委員会」と呼ばれます。法3条)と審査会等は、いずれも、公害に係る紛争に関するあっせん、調停及び仲裁について管轄を有します。その管轄の振り分けは法24条に定められています。
なお、責任裁定と原因裁定については、中央委員会のみが管轄を有します(法42条の2)。
審査会等に対して、公害紛争の当事者からあっせん、調停または仲裁が申請されたときには、それぞれ、3人以下のあっせん委員、3人の調停委員からなる調停委員会または3人の仲裁委員からなる仲裁委員会が、あっせん、調停または仲裁を行います(法28条1項、法31条1項、法39条1項)。個々の事件におけるあっせん委員、調停委員または仲裁委員は、審査会の委員(審査会を置かない都道府県においては、公害審査委員候補者名簿に記載されている者)の中から、審査会の会長(審査会を置かない都道府県においては都道府県知事)が指名します(法28条2項、法31条2項、法39条2項)。
今回の改正は、公害審査委員候補者名簿方式を採用する都道府県が候補者名簿を作成する期間に関するものです。
従来の法18条1項は、
「審査会を置かない都道府県においては、都道府県知事は、毎年、公害審査委員候補者9人以上15人以内を委嘱し、公害審査委員候補者名簿(以下「候補者名簿」という。)を作成しておかなければならない。」
という規定でしたが、始めに書いた通り、
「審査会を置かない都道府県においては、毎年又は1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに、都道府県知事は、公害審査委員候補者9人以上15人以内を委嘱し、公害審査委員候補者名簿(以下「候補者名簿」という。)を作成しておかなければならない。」
と改正されました(下線部が改正部分です)。
つまり、これまでは、公害審査委員候補者名簿は毎年作成しなければならなかったのが、改正により、「1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間ごとに」作成することも可能になったわけです。
この改正の意義について、公害等調整委員会は、「公害審査会を置かない都道府県においては、地域の実情に応じた柔軟な委嘱期間の設定が可能となり、委嘱手続の事務負担の軽減に資する」と説明しています(公害等調整委員会のウェブ雑誌「ちょうせい」の102号[本年8月]37ページ…公害等調整委員会の公式ウェブサイトに掲載されています)。
一方、審査会を置く都道府県においては、審査会の委員の任期は3年であり(法16条3項)、この規定には変更はありません。
この改正により、公害審査委員候補者名簿の作成期間が審査会の委員の任期(3年)と一致することがあり得ることになりました。ただし、審査会の委員の任期は3年で固定されているのに対し、候補者名簿の作成期間は「1年」または「1年を超え3年以下の期間で条例で定める期間」のどちらかですので、この両者が統一されたわけではありません。
なお、法18条1項の文言から明らかな通り、候補者名簿については、改正前のように毎年候補者名簿を作成する場合には、条例で定めることは不要であり、候補者名簿の作成期間を「1年を超え3年以下の期間」にするときだけ、条例で定める必要があります。
以上のように、都道府県レベルの公害紛争処理制度については、審査会方式と公害審査委員候補者名簿方式とがあり、各都道府県の選択により、どちらか一方の方式が採用されます。
ある特定の都道府県においてどちらの方式を採用しているかについては、その都道府県の公式ウェブサイトを見ればわかることが多いと思いますが(もしわからなければ、電話等でその都道府県庁に問い合わせれば教えてくれるでしょう)、各都道府県についてどちらの方式がとられているかを横断的に知りたいとか、47都道府県のうちでそれぞれの方式を採用している都道府県の数を知りたいとかいったときはどうすればよいでしょうか。
このことは公害等調整委員会の公式ウェブサイトに載っているのですが、予備知識なしでこのサイトを見て、求める情報にたどりつくのはかなり難しいと思いますので、書いておきます。
公害等調整委員会の公式サイトのトップページ(https://www.soumu.go.jp/kouchoi/)→「広報・報告・統計」→「年次報告(公害紛争処理白書)」→最新の年次報告の「参考資料」→(以下は、現時点で最新である令和元年度についての話です)「第1章 公害紛争処理制度の概要」とたどると、「第1編 公害紛争処理法に基づく事務の処理」の「第1章 公害紛争処理制度の概要」 というPDF文書が出てきます。その2ページから3ページにかけて、「令和元年度末現在、公害審査会を置いているのは37都道府県であり、公害審査委員候補者名簿を作成しているのは10県(岩手県、山梨県、長野県、和歌山県、鳥取県、島根県、徳島県、香川県、愛媛県及び長崎県)である。」という記述があります。
なお、この10県という数字とその内訳は、2011年5月に公刊した私の「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」の329ページの記載(2010年12月の時点で公害等調整委員会の公式サイトに記載されている、という注意書きがあります)と同一ですので、2011年以来現在まで変わっていないことになります。
騒音ストレスで魚が短命に
国際ニュースサイト「AFP BB NEWS」に、9月16日付で、「騒音ストレスで魚が短命に、寄生虫への免疫低下 研究」という記事が出ています。
それによれば、英国カーディフ大学の研究チームは、ホワイトノイズをランダムに水槽に流し、寄生虫に感染したグッピーへの影響を調べました。グッピーのグループの一つには騒音を24時間聞かせたあとで寄生虫に感染させ、他の一つのグループには騒音を7日間聞かせている間に寄生虫に感染させました。そして、3つ目のグループは対照群として、寄生虫に感染させたが騒音は聞かせませんでした。
その結果、17日間の観察期間で、騒音を24時間聞かせたグループの疾病負荷(疾患による健康損失を数値化したもの)が最も高くなり、また、騒音に7日間さらされたグループは短命の傾向が強く、他の2グループは平均で14日後に死んだのに対し、このグループは平均で12日後に死んだということです。
論文執筆者らは、「宿主寄生体相互作用における短期・長期の騒音の悪影響が明らかとなり、騒音と動物の健康被害の関連を明示する証拠がまた一つ増えた」とコメントしています。
騒音の動物への悪影響についてはこのコラムでも何度か取り上げてきましたが、また新しい知見が示されたといえます。
音響校正器による校正方法(環境省のマニュアル)
前回は、音響校正器による校正に関して、JIS Z 8731:1999とJIS Z 8731:2019の違いについて書きました。
今回は、現在の規定であるJIS Z 8731:2019に即して、音響校正器による校正の方法について書きます。
前回書いた通り、JIS Z 8731:2019の規定は、以下の通りです。
「音響校正器 マイクロホンを含めて騒音計が正常に動作することを音響的に確認するため、騒音計の取扱説明書(それに類する文書を含む)に記載された形式で、JIS C 1515に規定するクラスⅠ又はクラスLSのものを使用する。
なお、音響校正器は、3年を超えない周期で定期的に校正されているものを使用する。音響校正器の使用時の留意点は、対象とする騒音の種類ごとに、測定マニュアルなどを参照するとよい。」
このように、JIS Z 8731:2019自体は、音響校正器による校正の具体的な方法については何も述べておらず、「測定マニュアルなど」にゆだねています。
まず、音響校正器及び騒音計の取扱説明書の記述を見ますと、私が使用している音響校正器NC-74(リオン㈱製)と精密騒音計NA-28( 同社製)の取扱説明書は、いずれも、音響校正器が発信している音量(94.0 dB)と騒音計の指示値が異なっている場合には、騒音計の機能を使って指示値を合わせる(すなわち、94.0 dBを指すようにする)ように指示されています。
これに対して、前回も引用した「騒音に係る環境基準の評価マニュアル 一般地域編」(平成27年10月、環境省)は、考え方が異なります。このマニュアル13ページには、以下の記述があります。
「騒音計の表示値と取扱説明書に記載されている値との差が±0.7 dB 以上異なっている場合、故障している可能性があるため騒音計の点検修理が必要である。」
「本マニュアルによる測定では、操作ミス防止の観点から、レベル指示値の調整が適切に行われていることを前提として、測定現場において音響校正器を用いて騒音計のレベル指示値の調整は原則として行わない。」
これらの記載によれば、上記の取扱説明書とは異なり、測定現場では、誤差が±0.7 dB 未満であれば、指示値の調整はせずにそのまま測定を行う、他方、誤差が±0.7 dB 以上の場合には、騒音計が故障している可能性があるため、測定は行わず、騒音計の点検修理を行う、ということになります。
上記の「レベル指示値の調整」とは、測定現場ではなく、測定の実施に先がけて、手元や環境が安定した場所において取扱説明書に従って実施される、騒音計の指示値を音響校正器の音量に合致させる行為(前述した、NC-74やNA-28の取扱説明書に記載されている行為)です。平生はこれを実施する一方、測定現場では、誤差が±0.7 dB 未満であることを確認した上で、誤差の調整はせずに測定を実施する(誤差が±0.7 dB 以上であるときは騒音計の点検修理を行う)ということになります。
この方法によると、万一測定現場で誤差が±0.7 dB 以上であった場合には測定を中止しなければならないことになって、大変なことになります。けれども、私の経験では、現場での誤差は最大でも±0.2 dB 程度にとどまっていますので、誤差が±0.7 dB 以上になるようなことはまずないと思います。
JIS Z 8731の改正(3)…騒音計の校正
JIS Z 8731には、騒音計の校正(検査)に関する定めがあります。この点について、JIS Z 8731:1999と、JIS Z 8731:2019では大きな変更があります。
その違いに触れる前に、そもそも校正とは何かについて説明します。
法律(計量法)上は、騒音の測定結果を証明するための要件は、検定に合格しており、かつ検定の有効期限(5年間)内の騒音計を使用することです(騒音・低周波音・振動・悪臭問題の弁護士ブログ)。
しかし、JIS Z 8731では、測定時に騒音計の検査をすることが求められています。つまり、騒音計が5年に一度の検定に合格さえしていればよいというわけでなく、それに加えて、個々の測定のときにも騒音計の検査をする必要があるわけです。この検査が校正です。
この校正には二通りがあります。一つは音響校正器という機器を使う方法で、騒音計のマイクロホンに音響校正器を取り付け、この音響校正器を作動させると、音響校正器は、あらかじめ定められた音量の音を発信します。その音をマイクロホンが感知して、その音量を騒音計が表示しますので、表示された音量が所定の音量(音響校正器が発信した音量)に一致するかどうかをチェックします。ただし、完全に一致しなければならないわけではなく、ある程度の誤差は許容されます。
もう一つの方法は、音響校正器のような外部機器は使わず、騒音計に内蔵された電気信号発信機能によって電気信号を発信し、騒音計が所定の数値(デシベル)を表示するかどうかをチェックする方法です。この方法は、マイクロホンを介しませんので、マイクロホンの機能の検査はできません。
さて、校正に関するJIS Z 8731:1999(改正前)の規定は、以下の通りです。
「校正 すべての測定器は校正を行う必要がある。その方法は、測定器の製造業者が指定した方法による。測定器の使用者は、少なくとも一連の測定の前後に現場で検査を行わなければならない。その場合、マイクロホンを含めた音響的な検査を行うことが望ましい。」
次に、JIS Z 8731:2019(改正後)の規定は、以下の通りです。
「音響校正器 マイクロホンを含めて騒音計が正常に動作することを音響的に確認するため、騒音計の取扱説明書(それに類する文書を含む)に記載された形式で、JIS C 1515に規定するクラスⅠ又はクラスLSのものを使用する。
なお、音響校正器は、3年を超えない周期で定期的に校正されているものを使用する。音響校正器の使用時の留意点は、対象とする騒音の種類ごとに、測定マニュアルなどを参照するとよい。」
これらの規定を比較すると、次のことが言えます。
1)音響校正器の使用の義務化
前述した通り、校正には、音響校正器を使用する方法(マイクロホンの機能の検査が含まれる)と、音響校正器を使用しない方法(マイクロホンの機能の検査は含まれない)との2種類があります。
JIS Z 8731:1999では、マイクロホンを含めた音響的な検査を行うことが「望ましい」とされていて、この方法を必ず行わなければならないとまでは書いてありません。これに対して、JIS Z 8731:2019は、マイクロホンを含めた音響的な検査(音響校正器を使った検査)を行わなければならないという趣旨に読めます。
2)音響校正器の性能の指定
JIS Z 8731:1999は、音響校正器の性能については触れていませんが、JIS Z 8731:2019では、JIS C 1515に規定するクラスⅠ又はクラスLSのものを使用するという指定がされています。
なお、当事務所の使用している音響校正器は、リオン㈱製のNC74で、この音響校正器は上記の要件を満たしています。
3)音響校正器の校正
JIS Z 8731:1999には、音響校正器の校正のことは述べられていませんが、JIS Z 8731:2019では、3年を超えない周期で定期的に校正されているものであることが要求されています。なお、これと同じことが、環境省の「騒音に係る環境基準の評価マニュアル 一般地域編」(平成27年10月)の8頁にも記載されています。
4)校正は測定の前後に行うか、あるいは測定前のみか
JIS Z 8731:1999では、校正(調査)は一連の測定の前後に行わなければならないと述べられていましたが、JIS Z 8731:2019では、測定の前後とは述べられていませんので、測定の前だけに行えば足りるものと思われます。
JIS Z 8731:1999とJIS Z 8731:2019の校正に関する規定の相違は、以上4点です。これらのうち、1)~3)は校正に関する義務を強化する方向の改正であるのに対して、4)だけは緩和する方向だと思われます。
JIS Z 8731の改正(2)…騒音計の規格との関係
JIS Z 8731には、測定器(つまり騒音計)についての規定があります。
JIS Z 8731:1999では、4.1として、次の規定がありました。
「測定器としては、…等価騒音レベルを算出できるものを用いる。測定器はJIS C 1505に適合するものを用いることが望ましい。少なくともJIS C 1502に適合するものを用いなければならない。これらの騒音計に代わる測定器を用いる場合にも、周波数重み特性、時間重み特性について同等の性能をもつものでなければならない。」
ところが、ここに述べられているJIS C 1505(「精密騒音計」の規格で、正確にはJIS C 1505:1988)や、JIS C 1502(「普通騒音計」の規格で、正確にはJIS C 1502:1990)は、2005年に廃止され、JIS C 1509-1:2005及びJIS C 1509-2:2005に置き換えられました(JIS C 1509-1:2005のまえがきに明記されています)。
そのため、上記のJIS Z 8731:1999で、JIS C 1505やJIS C 1502を引用している部分は、内容が古くなってしまっていました。実際上は、上記の文章の中のJIS C 1505をJIS C 1509-1:2005に、JIS C 1502をJIS C 1509-2:2005に読み替えて運用されていたものと思いますが、JIS Z 8731:1999の文章からは、JIS C 1505やJIS C 1502がすでに廃止されたことはわかりませんので、誤解を招くもとになっていました。
この点について、JIS Z 8731:2019では、4.2の「測定器」の規定が次のように変わりました。
「騒音計 JIS C 1509-1に規定するサウンドレベルメータ(以下、騒音計という。)を使用する。」
このように、現在有効な規格であるJIS C 1509-1が引用されましたので、上記のような読み替えの必要はなくなり、整理されました。
また、JIS Z 8731:2019の「2 引用規格」には、
「次に掲げる規格は、この規格に引用されることによって、この規格の規定の一部を構成する。これらの引用規格は、その最新版(追補を含む。)を適用する。」
とあって、それに続いて、 「JIS C 1509-1 電気音響ーサウンドレベルメータ(騒音計)-第1部:仕様」
とあります(他にもいくつかのJISが挙げられています)。
上記のJIS C 1509-1:2005は、その後さらに新しいJIS C 1509-1:2017に改正されていますので、JIS Z 8731:2019の規定の一部を構成しているのは、このJIS C 1509-1:2017です。
なお、騒音計の有力なメーカーであるリオン株式会社のウェブサイトを見ると、同社製の騒音計のうちで、JIS C 1509-1:2017に適合する型式は、NA-28、NL-42、NL-52、NL-62、NL-27、NA-83の6種だそうです。従って、JIS Z 8731:2019に従った測定をするためには、リオン製の騒音計を使う場合にはこの6種のうちのどれかを使う必要があります。
当事務所が使用しているのは、NA-28(2台)です。
JIS Z 8731の改正(1)…「騒音」の定義
JIS Z 8731(環境騒音の表示・測定方法)は、騒音の測定方法について定めた日本産業規格で、騒音を規制する法律や条例では、ほとんどの場合、騒音の測定方法はJIS Z 8731によると定められています。
このJIS Z 8731は、1999年に定められたものが長く用いられてきましたが(JIS Z 8731:1999と表記されます。その一世代前は、1983年に定められたJIS Z 8731:1983でした)、2019年に改正され、現在通用しているものはJIS Z 8731:2019です。
JIS Z 8731:1999とJIS Z 8731:2019を比較すると、かなり重要な変更点があります。これから、それらを数回にわたって御紹介します。今回は「騒音」の定義についてです。
JIS Z 8731:2019では、「1 適用範囲」のところに、「・・・環境騒音とは、一般の居住環境における騒音(望ましくない音)をいう」という文章があります。このような「環境騒音」や「騒音」の説明は、JIS Z 8731:1999にはありませんでした。
JIS Z 8731:2019の上記の文章は、「環境騒音」及び「騒音」の定義を示したものとみてよいと思います。
「騒音」の定義は法令にはなく、その代わりに公的権威のある騒音の定義として、JIS Z 8106(音響用語)には、「不快な又は望ましくない音、その他の妨害。」という定義が載っています。私はこの定義を「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」で引用しました(57頁)。
けれども、私は、この定義の「その他の妨害」というところが余分だと思い、あまり適切な定義だとは思っていませんでした。この表現だと、音以外のもの(「妨害」)が「騒音」となりうるように読めますが、それは一般常識からかけ離れ過ぎているでしょう。
今回、JIS Z 8731:2019に、騒音とは望ましくない音のことであるという意味の表現が入りましたので、これからは、「JIS Z 8731:2019によれば、騒音とは望ましくない音のことである」と説明すればよいと思います。「望ましくない音」というのは、シンプルでよい定義だと思います。
耳鳴りの治療法
低周波音の被害を訴える人の中には、実際には低周波音ではなく、その人の耳鳴りが身体的不調の原因である場合があるとされています。このことは、環境省の「低周波音問題対応の手引書」にも明記されています。
では、身体的不調の原因が低周波音ではなく耳鳴りであるとわかった場合、どのような治療法があるのでしょうか。
本年5月13日の朝日新聞に、「耳鳴り、音を流して症状緩和 脳の興奮、意識そらす」という記事が載っています。
この記事によると、耳鳴りの根治に特効薬はなく、耳鳴りそのものの消失や改善を目標に薬物療法を選ぶのは、科学的な根拠がなく、適当ではないとされています(日本聴覚医学会の耳鳴りガイドライン)。
一方、このガイドラインは、耳鳴りに伴う抑うつや不眠を和らげるためなら、抗うつ剤や睡眠薬などについて「一定の効果」が期待できるとしています。
また、耳鳴り再訓練療法(TRT)というものがあります。これは、耳鳴りを緩和する「音響療法」の一つで、耳鳴りを消すのではなく、慣れさせて苦痛を軽減することが目的であり、患者の耳につけた機器から、雑音やオルゴール音などを流し続けるというものです。機器は5万~50万円ほどで、機器をつけながら、医師からカウンセリングも受けます。
この療法によって、耳鳴りのある64歳の患者が夜眠れるようになり、仕事を中断することも減るという効果があった例も紹介されています。
「悪臭」という感覚は後天性である
新村芳人著「嗅覚はどう進化してきたか」(岩波書店・岩波科学ライブラリー)の66ページ以下に、次のような興味深い話が載っています。
味覚について、人がある味を好ましいと思うかどうかの反応は、後天的に学習するのではなく、遺伝的にプログラムされたものであるとされています。
また、嗅覚についても、マウスについては、後天的なものではない先天的な悪臭(いわば「絶対的な悪臭」)が存在することが実験により確かめられています。
しかし、人間の場合には、このような絶対的な悪臭は存在しないというのが多くの研究者の考えです。
このことを示す実験として、2つのビデオ上映ボックスにそれぞれバラの香りと糞便の臭い(スカトール)を充満させ、幼児にそれぞれのボックスで同じ内容のビデオを見せたあと、どちらのボックスでもう一度ビデオを見たいと思うかを選んでもらうと、結果は半々であり、どちらのボックスをより好むという傾向は見られなかった(他方、母親に同じ実験をすると、9割近くの人は糞便の臭いのボックスをより不快に感じた)ということです。
糞便の臭いは、トイレという汚くて避けるべき場所といつも一緒に現れるため、脳が糞便の臭いを避けるべきものと感じるようになり、そのために人は糞便の臭いを不快に感じるようになる、ということだそうです。このことは「連合学習」と呼ばれます。「連合」とは、2種の刺激の組み合わせを意味します。
もしも私が「解説悪臭防止法」の執筆中にこの本を読んでいたら、当然この話を紹介していたでしょうが、この本は「解説悪臭防止法」の出版の翌年の2018年に出た本です。
音楽フェスティバルの騒音が水中の魚のストレスを高める
科学情報メディア「ナゾロジー」https://nazology.net/に、7月8日付で、「音楽フェスの騒音が「魚のストレスを急激に高める」と判明! 水中の騒音が魚の聴覚を狂わせる(アメリカ)」という記事が掲載されています。
この記事によれば、フロリダ州マイアミで毎年行われるエレクトロニック・ダンス・ミュージックの祭典「Ultra Music Festival」による騒音の水中の魚への影響について、このフェスティバルの会場に近いマイアミ大学ローゼンティール・スクールの研究によると、ラボ内で飼っているアンコウ類の血中のコルチゾール値が、昨年3月のフェスティバルの開催中は、開催前の4~5倍に跳ね上がったということです。コルチゾールはストレスによって分泌が促進されるホルモン物質であり、この分泌量が多いと血圧や血糖を高め、不妊や免疫レベルの低下を引き起こします。
また、フェスティバル開催中の水中の騒音の変化を調べたところ、ラボ内の水槽で7~9デシベル、近郊の水域では2~3デシベルの上昇が確認されており、これは魚の生態にネガティブな変化を与えるに十分な数値の変化であるとされています。
騒音が水中生物に与える悪影響については以前にも取り上げたことがありますが(「水中の騒音がムール貝の成長を阻害するおそれ(イギリス」)、今回のナゾロジーの記事には、「これまでの研究でも、水中の騒音は、魚の聴覚を狂わせ行動異常を引き起こし、生殖や産卵を混乱させることが証明されていました」という文章があります。
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